長からむ心もしらず黒髪のみだれて今朝は物をこそ思へ 長からむ心もしらず黒髪のみだれて今朝は物をこそ思へ
現代語訳
長く思い続けてくれるのでしょうか、あなたの心はわかりません。ただ、黒髪が乱れるように、心乱れて今朝は物思いにくれているのですよ。
所載歌集
千載集 恋三 802

女の後朝(きぬぎぬ)

女の後朝(きぬぎぬ)の心情を詠んだ一首。男の歌は43「逢ひみての」50「君がためを」52「明けぬれば」と、いずれも相手への思いが高まることを強調する。だが女はそうしたことばを素直に受け入れられない。前半の二句では、男が帰りひとりきりになったときにわきあがった不安をいう。「長からむ」の縁語「黒髪」が「乱れて」を導く序詞的な働きをして、全体に統一感をもたらす。女性の身体が直接和歌に詠まれることはなかった。そのただひとつの例外が「黒髪」だ。男への不安や激しい物思いといった、形にならない心の揺れがこの一語を通して、まだ起き上がることができずに思い悩む女の姿として目の前に現れる。56和泉式部の「黒髪の乱れも知らずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき」という、この髪を掻きやってくれた人が恋しく思われるとうたった、かつての恋を思い出す歌を踏まえ、今の思いをなまなましく詠みだしている。

 

作者・堀河は鳥羽院の中宮で77崇徳院の母・藤原璋子(待賢門院)に仕えた女房。金葉集に六首採られるなど早くから歌人としての評価が高かった。86西行との贈答歌も伝わる。この歌は崇徳院主催の『久安百首』で詠まれたもので千載集に入る。そのころ成った「中古六歌仙」に74俊頼75基俊84清輔85俊恵らとともに選ばれている。

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