あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびのあふこともがな あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびのあふこともがな
現代語訳
いなくなってしまうであろうこの世のほか、来世への思い出にいま一度あなたに逢いたいものです。
所載歌集
後拾遺集 恋三 763

生涯の中で

式部は橘道貞との間に60小式部をもうける。その後、冷泉帝の皇子で68三条院の同母弟・為尊(ためたか)親王と関係を持つが親王は26歳で病没。その翌年に始まった弟・敦道親王との交際が『和泉式部日記』の題材となる。この親王とも27歳で死別。その後は中宮彰子に仕え、藤原保昌(やすまさ)と結婚する。60「おほえやま」は保昌が丹後守になり式部も一緒に赴任した時の話。保昌は『今昔物語集』などで、袴垂(はかまだれ)という盗賊を圧倒した話で有名。ただし、この歌の相手が誰なのかはわかっていない。後拾遺集・恋三によると、病気が重くなったころに恋人に贈った歌。初二句の評価が高く、「この世のほか」と言いながら現世を強く意識することで、相手への思いをはっきりと伝える。歌末「もがな」は自らの願望を表わす。式部の恋歌にあっては平明な一首。

 

歌人としての評価は早くから高く、62清少納言57紫式部に先んじて拾遺集に一首「暗きより暗き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月(煩悩の闇から闇へと迷ってしまいそうだ。遥か彼方まで照らしておくれ、山の端にかかる仏法の月明かりよ)」が入る。日記にはこの歌を意識した、石山詣での後に親王に贈った「山を出でて暗き道にぞたどりこし今ひとたびの逢ふことにより(山を下りて俗世間に戻ってきました。いま一度あなたに逢うために)」の一首が残る。三首を並べることで式部の生涯を見る思いがする。

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