- 現代語訳
- 生きながらえたとしたら、今この頃がなつかしく偲ばれるのだろうか。あの辛いと思っていた昔が今では恋しいよ。
- 所載歌集
- 新古今集 雑下 1843
若者の述懐歌
20代後半から30代半ばごろにかけて詠まれた述懐歌。この時期、史料に名がほとんど見えず不遇の時代であった。それでもさらに若かったかつての「憂しと見し世」が今では恋しく思うのだ。だとすると、もう少し生きながらえて振り返ったときには、今の辛い日々も恋しく思うのだろうか、と言い聞かせることで今の自分を慰めようとする。83俊成の述懐歌も若いときのものであった。戦乱の続く世の中で、貴族社会も前例が通用せず先行きが見通せなかった。若い貴族の多くは漠然とした不安を抱えていたのであろう。
1177年、70歳で生涯を閉じる。過去をふり返って「今ぞ恋しき」と思う感覚は広く共感をもって受け入れられる。生きながらえた清輔は、この歌を詠んだ不遇の時代をどのような思いで振り返ったであろうか。
〈暁星高等学校教諭 青木太朗 〉