- 現代語訳
- 大海原に漕ぎ出して、眺めてみると、雲と見紛うばかりの沖の白波だよ。
- 所載歌集
- 詞花集 雑下 382
歌の古さと新しさと
1135年9月、77崇徳院の御前で開かれた歌合での一首。「海上の遠望」という題。この歌合で初めて出された新しい題である。歌は、遠く沖合まで見渡すスケールの大きさと、雲と波の区別がつかなくなるという微妙なところを見極めようとする繊細さを兼ね備える。海上を意味する「わたの原」は万葉集に多く見られる「わたつうみ」に拠るもので、当時は古めかしいものであった。おのずと、平安時代でも比較的早い時期に詠まれた11「わたの原八十島かけて」を連想させる。「漕ぎ出でて見れば」からは4「田子の浦にうち出でて見れば」が思い出され、やはり古体な言い回し。枕詞もこの時代は古歌を意識して用いるのが常であった。古色をたっぷりとまとったことば遣いでありながら、新しい景色を詠みだしたところに歌人としてのセンスと意欲を感じる。
〈暁星高等学校教諭 青木太朗〉