- 現代語訳
- 山鳥の尾の、あの垂れさがった尾のような長い長い夜をひとりで寝るのであろうかなあ。
- 所載歌集
- 拾遺集 恋三 778三十六歌仙
長さの演出
もとは万葉集の「思へども思ひもかねつあしひきの山鳥の尾の長きこの夜を(あの人のことを思っても思っても耐えられないことだ。山鳥の尾のように長い今宵は)」という作者未詳の歌。この異伝という形で万葉集に書きとどめられたもの。人麻呂の歌という確認は取れない。平安時代になると、例えば55藤原公任は三十六人撰に人麻呂の代表歌としてこの歌を採り、また「人麿集」にもみえ、拾遺集にも人麿歌として入集する。いつしか、人麻呂の歌として親しまれていた。
山鳥はキジ科で赤褐色、長い尾を持つ。上三句はその特色をとらえた序詞。「山鳥の尾」だけで長さは十分に伝わるところ、さらに「しだり尾」と付け加えて「長々し」を導く。長い夜は秋を連想させる。秋は「飽き」に通じ、相手の訪れが間遠になることを予感させる。「か」は疑問の係助詞で、今夜もひとりきりなのかと自分に問いかける。寒くて長い夜、今日も待ち人は来ない。今宵の状況を伝えるだけの歌でありながら、ひとりで寝ることのわびしさやせつなさが伝わる。長さをくどいほど強調した序詞がよく効いている。また「山鳥」はオスとメスが夜には離れ離れで過ごすと言い伝えられた。すでに歌い出しからひとりでいることが暗示されていたのだ。
なお枕詞「あしびきの」は万葉集では「足日木乃」や「足引乃」などと記され古くは清音であった。
〈暁星高等学校教諭 青木太朗〉