玉のをよたえなばたえねながらへば忍ぶることの弱りもぞする 玉のをよたえなばたえねながらへば忍ぶることの弱りもぞする
現代語訳
わが命よ、絶えてしまうのであれば絶えてしまえ。このまま生きながらえたら、忍ぶ思いが弱ってしまいそうだから。
所載歌集
新古今集 恋一 1034

忍ぶ恋の行方は

「玉の緒」は玉を貫く糸のことで、玉は(たま)に通じるところから命をいう。「絶え」「ながらへ」「弱り」は「緒」の縁語。今にも切れそうな一本の糸がかろうじて命をつなぐ、というイメージだ。そうして、わが命よ、絶えてしまえという激しい口調と、「弱りもぞする」という今にも消え入りそうな言い方との不釣り合いな様子が、心の揺れの激しさを物語る。思いを秘めた忍ぶ恋も限界に近い。「もぞ」は72「音に聞く」の「袖の濡れもこそすれ」と同じ用法でそうなったら困ることを表わす。生きながらえて恋を終わらせるのではなく、死ぬことで恋を全うしようとする壮絶な思いが一首を覆いつくす。万葉集に「息の緒に思へば苦し玉の緒の絶えて乱れな知らば知るとも(命を懸けて思う苦しさに、玉の緒が切れたように私も乱れよう、人が知ろうとも)」があり、古今集には33友則の「下にのみ恋ふれば苦し玉の緒の絶えて乱れむ人な咎めそ(忍ぶ恋は苦しい。玉の緒が切れるように、私が思い乱れても咎めないでくれ)」がある。こうした古歌の世界を理解した上でこの歌を見ると、忍ぶ恋をそのまま成就させようという決意は重たい。出典の新古今集・恋一の詞書には「百首歌中に、忍ぶ恋を」とある。題詠の一首。

 

式子内親王は後白河院の皇女。10代のほとんどを賀茂斎院として過ごし、その後出家。恋歌の名歌を数多く残したが、恋愛生活とは縁遠い生涯であった。

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