一日一首
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歌人
曾禰好忠
歌
由良のとを渡る舟人梶を絶え行方も知らぬ恋の道かな
現代語訳
由良の河口を渡る舟人が、梶がなくなりどこへ行くのかもわからぬように、この先どうなるかわからない私の恋の道ですよ。
出典
新古今集 恋一 1071
決まり字
ゆら
秋の田のかりほの庵の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ
春過ぎて夏来にけらし白妙の衣干すてふ天の香具山
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋はかなしき
かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける
天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも
我がいほは都のたつみしかぞ住む世をうぢ山と人はいふなり
花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関
わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよ海人の釣舟
天つ風雲のかよひぢ吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ
筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる
みちのくのしのぶもぢずりたれゆゑに乱れそめにし我ならなくに
君がため春の野に出でて若菜つむ我が衣手に雪は降りつつ
たち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かばいま帰りこむ
ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは
住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ
難波潟みじかき葦のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや
わびぬれば今はた同じ難波なる身をつくしても逢はむとぞ思ふ
今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな
吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ
月見れば千々にものこそかなしけれ我が身ひとつの秋にはあらねど
このたびは幣もとりあへず手向山もみぢの錦神のまにまに
なにしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな
小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ
みかの原わきて流るるいづみ川いつみきとてか恋しかるらむ
山里は冬ぞさびしさまさりける人目も草もかれぬと思へば
心あてに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花
有明のつれなく見えし別れよりあかつきばかり憂きものはなし
朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪
山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬもみぢなりけり
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ
白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける
忘らるる身をば思はずちかひてし人の命の惜しくもあるかな
浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき
しのぶれど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人のとふまで
恋すてふ我が名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか
契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波越さじとは
あひみての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり
逢ふことのたえてしなくはなかなかに人をも身をも恨みざらまし
あはれともいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな
由良のとを渡る舟人梶を絶え行方も知らぬ恋の道かな
八重葎しげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり
風をいたみ岩うつ波のおのれのみ砕けて物を思ふころかな
みかきもり衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつ物をこそ思へ
君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな
かくとだにえやはいぶきのさしも草さしもしらじなもゆる思ひを
明けぬれば暮るるものとは知りながらなほ恨めしき朝ぼらけかな
嘆きつつひとりぬる夜の明くるまはいかに久しきものとかはしる
忘れじの行末までは難ければ今日を限りの命ともがな
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ
あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびのあふこともがな
めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな
有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする
やすらはで寝なましものを小夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな
大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立
いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな
夜をこめて鳥の空音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言うよしもがな
朝ぼらけ宇治の川霧絶えだえにあらはれわたる瀬々の網代木
うらみわび干さぬ袖だにあるものを恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ
もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし
春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ
心にもあらで憂き世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな
あらし吹く三室の山のもみぢ葉は龍田の川の錦なりけり
さびしさに宿を立ち出でてながむればいづこも同じ秋の夕暮
夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろ屋に秋風ぞ吹く
音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ
高砂の尾上の桜咲きにけり外山の霞立たずもあらなむ
憂かりける人を初瀬の山おろしはげしかれとは祈らぬものを
契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり
わたの原漕ぎ出でて見れば久方の雲居にまがふ沖つ白波
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ
淡路島かよふ千鳥の鳴く声に幾夜寝覚めぬ須磨の関守
秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ
長からむ心もしらず黒髪のみだれて今朝は物をこそ思へ
ほととぎす鳴きつる方をながむればただ有明の月ぞ残れる
思ひわびさても命はあるものを憂きにたへぬは涙なりけり
世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
ながらへばまたこのごろやしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋しき
夜もすがら物思ふころは明けやらで閨のひまさへつれなかりけり
嘆けとて月やは物を思はするかこち顔なる我が涙かな
村雨の露もまだひぬ真木の葉に霧立ちのぼる秋の夕暮
難波江の蘆のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき
玉のをよたえなばたえねながらへば忍ぶることの弱りもぞする
見せばやな雄島の海人の袖だにも濡れにぞ濡れし色は変はらず
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む
我が袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし
世の中は常にもがもな渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも
み吉野の山の秋風小夜ふけてふるさと寒く衣うつなり
おほけなく憂き世の民におほふかな我が立つ杣に墨染の袖
花さそふあらしの庭の雪ならでふりゆくものは我が身なりけり
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ
風そよぐならの小川の夕暮はみそぎぞ夏のしるしなりける
人もをし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆゑに物思ふ身は
ももしきや古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり