一日一首
ランダムに変わる取り札を見て上の句を当てる練習ができます。毎日の腕試しにご活用ください。
歌人
中納言敦忠
歌
あひみての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり
現代語訳
逢って一緒に過ごした後の心に比べたら、昔は物思いなどしていなかったのだなあ。
出典
拾遺集 恋二 710
決まり字
あひ(読み方: あい)
【名人位戦の部】
前回と立場を逆にして初防衛を目指す川瀬将義名人に粂原圭太郎前名人が挑む。川瀬選手が初挑戦にして3勝1敗で名人位を獲得した前回は、初戦を除きいずれも接戦であった。粂原選手の右陣、最強の「盾」を川瀬選手の鋭い「矛」が貫くことができるのか、それとも跳ね返してしまうのかという点を一番の見どころと予想した通り、激しい攻防が繰り広げられた。川瀬選手が4試合平均で相手陣を15.3枚、自陣を9.3枚取ったのに対して、粂原選手は相手陣8.5枚、自陣13.8枚であり、相手陣を攻め続けてペースを握ったのは川瀬選手であった。今回も同様に粂原選手の右陣を中心とした攻防が予想されるが、策士である粂原選手が何らかの川瀬選手対策を準備しているに違いない。選手のかけひきにも注目いただきたい。
川瀬名人は前回の試合で苦手とする粂原選手との接戦を制して3勝をあげたことは大きな自信につながったはずだ。特に弱点と言われた終盤戦をしっかりと攻め切り、戦い方のコツを掴んだと思われる。予選から出場した前回と比べて練習量は減っているようにも感じるが、相手陣一辺倒の戦い方から自陣にも素早く反応することができるようになり幅が広がっている。粂原前名人が挑戦者というのは最大の試練となるが、新しい川瀬選手でもう一度挑戦するつもりで立ち向かっていくようなアグレッシブな取りに期待したい。またその一方で、大名人を目指すのであれば正確で美しい取りに加え、堂々とした振る舞いを見せて欲しい。
一方の粂原選手は、名人位奪還に向けて並々ならぬ意気込みを見せている。挑戦者決定戦では初戦を落とすも、直近の国民文化祭では全勝、奈良大会でも優勝して勢いをつけて本戦に臨む。前回からの一番大きな変化は、京都大学かるた会から京都小倉かるた会へ電撃移籍したことである。荒川元クイーンや山添クイーンが所属する伝統ある会に身を置くことで、もう一度基礎から鍛え直す意図があったのだろうか、取り方にも少し変化がうかがえる。これまで築き上げた独自のスタイルに新たな武器が加わっていることも考えられ、どんな戦い方をするのか非常に楽しみである。また名人として挑戦を受ける立場で臨んだ前回と違い、あらゆる手を尽くし全力で倒しに行くことになる今回の姿は必見である。
最後に、これまでの長い名人戦の歴史を振り返ると初防衛戦を落とした名人はいない。名人として大きく成長するからだと考えられるが、前名人が翌年に挑戦者となるケースが稀であり、今回は川瀬名人にとっては再び越えなければならない大きな壁が立ち塞がることになる。防衛してさらなる強さと自信を身に付けて安定期に入るのか、粂原前名人が返り咲いてもう一度時代を築き上げるのか、かるた界にとって注目の一戦となることは間違いないだろう。
【クイーン位戦の部】
3期目を目指す山添百合クイーンに三笘成6段が挑む。二人の対戦は過去に何度かあるが、山添選手がクイーンに就いた第65期クイーン位決定戦の西日本予選決勝戦の相手が三笘選手であった。8枚差で勝利を収めてそのままクイーンへと駆け上がった。直近の対戦は令和2年のちはやふる小倉山杯において、三苫選手が8枚差で初勝利をあげている。両者の特徴は共に自陣、相手陣に関わらず音をしっかりと聞いて取るオールラウンダー型であること。同じタイプの選手が対戦した場合、より精度を高めた選手が大きく有利となる。その点で言えば山添クイーンの速さ、経験がひとつ上だろう。ただ、山添クイーンが相手陣を重視しているのに対して、三笘選手はどちらかと言えば自陣寄りのバランス型に見える。その僅かな違いがどのような結果を生むのか注目いただきたい。
山添クイーンは5度目の本戦出場となる。防衛戦へのプレッシャーは当然あり緊張もするだろうが、クイーン戦の舞台で既に10試合を経験しており、第65期、第66期はストレート勝ちを収め6連勝中。特に初防衛戦となった昨年は終始落ち着いた取りを見せて完勝。相手陣に重きを置いて攻めながらも自陣もしっかり取るスタイルにさらに磨きがかかった模様。第3回ちはやふる小倉山杯でも優勝し、自信を大きくつけて成長がうかがえる。その後の大会では思うような結果を残せていない部分もあるが、年間を通してクイーンとして大会に出場し練習も重ねながら、防衛するために試行錯誤し続けている感がある。油断や慢心は一切なく向上心をもって己や競技に向き合い、また相手を尊重する姿勢はまさに選手たちのお手本のような存在であると言える。自身が目指す理想のクイーンとしての取りや振る舞いを期待したい。
一方の三笘挑戦者は念願のクイーン位初挑戦となる。小学生から競技をはじめ基礎からしっかり鍛えたかるたに、大学、社会人となって強さが身についた。これまでも有力選手として数々の戦績を収めてきたが、挑戦者決定戦においては非常に固さが目立ち、本来の取りができないほどの緊張に襲われてミスから初戦を落とした。本戦の重圧はその比ではない。しかもクイーンが相手となる。まずは己に克たなければ道は開けない。若い挑戦者らしく思い切り向かっていって欲しい。本戦まではあまり時間がないがしっかりと練習を重ねて準備をしてくるだろう。特に尊敬する先輩である鶴田紗恵元クイーンをはじめ、福岡かるた会の全面的なバックアップは強力である。
楠木永世クイーン引退後、3期を務めたクイーンはいない。それほど防衛することは難しいと言える。山添クイーンが3期目の防衛を果たして永世クイーンへと近づくのか、それとも三笘選手が新たな時代を切り拓くのか。すべての札を全力で取りに行く両者の競技スタイルは、勝敗以上にすばらしいものを生むだろう。
※写真は第68期名人位・第66期クイーン位決定戦の写真です。