一日一首
ランダムに変わる取り札を見て上の句を当てる練習ができます。毎日の腕試しにご活用ください。
歌人
陽成院
歌
筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる
現代語訳
筑波嶺の峰から落ちるみなの川。その流れが積もって淵となったように、私の恋も積もって深い淵となってしまったよ。
出典
後撰集 恋三 776
決まり字
つく
新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、この2年間開催できなかった恒例の全日本かるた協会通常総会後の「小倉百人一首かるた講演会」が、令和4年6月12日(日)午後、3年振りに開催されました。
講師は、三重若菜会所属で、桑名市立大山田北小学校特別支援学級担当(講師)の太田智絵さんです。
講師は、同じ桑名市内にある中学校の特別支援学級を担当していたときに、障がいの内容や特性の異なる7人の生徒に対して講師が取り組んだ、小倉百人一首かるたを用いた自立活動の支援について講演してくださいました。
冒頭、講師から、「普通は「障害」と表記しますが、「害」は「悪いこと」の意味と思われがち。生徒たちは悪いわけではないので「障がい」、「特性」と表記します」とお話があり、“ハッ”としました。自分たちも、知らないうちにそのように思っていたのかもしれません。
そして、「障がい」の概念についての説明では、障がいのある子どもが日常生活における活動の制限をうける中で、いろいろな障害(障壁)を取り除くことによって、活動や参加ができるようになるかが重要とのお話がありました。
また、特別支援学級は、個別に学習面・生活面での支援、通常クラスの中でコミュニケーションや交流・人間関係を築いていくための支援を行う学級のことで、それには、弱視、難聴、肢体不自由、知的障がい、言語障がい、自閉症・情緒障がい(自情)の特別支援学級があり、特に、自情特別支援学級は、年々増加傾向にあるとのことでした。
講師が受け持った学級の生徒は、全部で7人。難聴1人、知的障がい3人、自情3人で、それぞれ特性が異なりますが、共通していることは、いずれも通常クラスの中で“居場所がないと感じている”生徒たち。
講師は、まず、各生徒の特性を踏まえ、生徒毎の課題と「何をどこまでできるようになるといいか」の目標を設定します。
そして、講師は、先の見通しを持ちやすくして、不安にならないように活動内容をパターン化し、一度に多くのこと伝えてパニックになるといけないので、シンプルに伝えるように心がけ、さらに、人間関係の上で安心できるような居場所作りを意識しつつ、自立活動の授業として、体を大きく動かしてボディイメージを付けるために札を飛ばしたり、視る力と集中力を養うために取り札と決まり時かるたを使って神経衰弱をしたりしました。また、チームに分かれて、少ない札でチラシ取りをすることで、嬉しい気持ちを表したり、悔しい気持ちを我慢したりできるよう、また、仲間とコミュニケーションを取れるよう工夫しました。そして、授業の最後には、生徒と一緒に振り返りの時間を持って、生徒が自分の気持ちを直接伝えることが出来るように配慮しました。
講師は、生徒の様子を観ながら、修正を加えながら夏休みを除く約5か月間続けました。
その結果、半年後の9月には、生徒に変化が現れはじめます。
難聴のため、言葉のイメージが不足していたA君は、読みを聞いて、正確に札を探して、取ることができるようになりました。知的障がいのため、言葉で自分の意思を正確に伝えることができなかったBさんは、チームメイトに作戦を伝えることができるようになりました。
知的障がいのため、自分の意思や感情を伝えることが難しかったC君は、札を取れてうれしい気持ちを伝えることができるようになりました。多動性で、集中力が5分と持たなかったD君は、最後まで座って試合ができました。また、取られて悔しい気持ちを我慢することができるようになりました。解離性障がいで、安心できる場所でないと泣いて固まっていたEさんは、下級生にアドバイスするなど、積極性がでてきました。うまくいかないと人のせいにして、すぐに怒っていたFさんは、落ち着きながら最後まで周りと一緒に活動できました。悔しかったり、嫌だと感じたりしたら暴れていたG君は、怒りそうなときに気持ちを伝えて落ち着くことができました。
これは凄い進歩です。
彼らのうち、BさんとD君、EさんとFさんは、それぞれチームを組んで、主催者の三重県かるた協会の理解とサポートの下、11月に開催された桑名市民芸術文化祭の「初心者かるた取り大会」に出場します。そして翌年1月には、学校の百人一首大会に特別支援学級の7人が個人で参加します。4月には、通常のクラスには“居場所がない”と感じていた7人が、です。
最後に講師が、最初は、感情をコントロールできない生徒が、チラシ取りを通じて、「仕方ない」、「次取ればいい」と感情を抑えることができるようになった。そして、どんな小さなことでも、何かが「できた」ということは、大きな喜びと自信になり、生徒たちの成長につながった、と締めくくっています。
私たち「健常者」は、普段競技かるたをやっていて、「強くなりたい」とか「うまくなりたい」とか思いがちですが、その一方で、今回の講演のように、何かサポートを必要とする特別支援学級の生徒たちに、かるたが一つのきっかけを与えたことはとても意義深いことと思いますし、かるたの無限の可能性を感じた1日となりました。ぜひ、講師には、かるた関係者だけではなく、教育に携わる方々へも今回の経験を伝えていっていただければと、切に願わずにはいられません。ありがとうございました。